環境界隈で働いている人なら知っていると思われる、地球環境ファシリティ(Global Environment Facility、GEF)。このファンドシステムは端的にいうと、開発途上国に環境を破壊した経済発展よりも配慮した発展を選ばせるためのものというもの(私の解釈だけど)。正確に概要をコピぺするならこちらのサイトを参照。パラオは利用しており、政府機関がファンド受け入れ先となり、うちのような研究施設やNGO、州政府などが資金の対象となっている。

日本のJICAの援助は日本人が来て日本人が現地と共同することで顔の見える支援をしようというコンセプトがあった。JICA隊員当時は、私はこれは正しいと思っていた。現地の人とのコミュニケーションなしに本当のニーズは理解できないから。

でも、それなりの問題点も見えてきた。派遣されたからと言って、現地のニーズを必ずしも正確に読み取れるわけではない。結局のところ、自分たちに何が必要かわかっているのは現地の人々であって、それを現地語初心者の外国人に説明はできないし、文化的背景の理解にそもそも時間がかかる。中にはいつまでたっても相手国の文化的背景が理解できない人もいる。頑なに現地語を覚えない人もいる。

顔の見える支援とはなんだったのか。結局のところ日本による日本のための日本の援助であるに間違いなかった。援助は途上国が欲しいものをくれない、日本が入れたいものをくれる。日本が入れたいものとは日本の企業が世界に売り込みたいものである。

実際にサンゴ礁センターで備品が故障した際に日本に問い合わせると、なぜJICAの備品が数年後に使われなくなるかは明らかだった。

機材が故障した際に小さなパーツ交換で使える程度の話だったとする。メンテナンスのスタッフはそこそこ内部の仕組みを理解しているのでパーツ交換は自力で行える。ただ、純正品パーツは日本取り寄せになってしまう。その際に、日本語でしか問い合わせができない。日本語で例え問い合わせができても次に支払いの問題が発生する。パラオから送金できる口座を開設していない日本の企業は多く、クレジットカード支払いもできない。私が日本の個人口座を使い母親に依頼して送金する手続きをし、日本の自宅に送付しパラオに転送する。これでは日本国籍の日本に協力者のいる人間が現場にいなければならない。

隊員時代はどの所長も「最終的には現地の人が自立した運営をできるように目指して欲しい」といっていたが、本音は自立させないようにできているのではないか?と思った。

結局のところ、純正品ではない現地で仕入れたパーツで代用し、故障し交換する際には米国の会社を選ぶ。パラオの場合、送金も送料もこの方が得なのである。

このほか、実験機材のカートリッジ交換なども同様のことがおこる。パラオへの配送、パラオからの送金は受け付けませんと会社に言われる。コンサルティング会社に仲介に入ってもらい手数料を払うか、日本人が現場にいなければ機材ごと無用の長物になるということである。

そしてパラオ人が嫌がってるのが他会社の介入である。機材問い合わせをかけた結果、結局は日本のコンサルティング会社が登場し、貿易手続きなどにかかる費用が上乗せされた見積もりがくる。もちろん、会社としては当然の手数料であり、送料だけではない手続きにかかる費用がかかっているから仕方ないのだが、パラオから見るとこれが談合に見える。こちから仲介業者が選べず勝手にメーカーから懇意にしている会社に連絡をされているという風に捉えられている。

日本としては日本の機材を使って日本のメンテナンスを受けて欲しい、それでこそ政府開発援助の意味があると。(そうなりたいなら銀行の外貨送金の受付システムをもっと一般に浸透させ簡易にして欲しい。)

パラオ人から「JICAは資金のハンドリングをこっちにくれないんだよね?なんで?」という質問は度々される。

GEFは一定額まで給与の支払いに資金を充てられるようにできている。対してJICAはカウンターパートの給料を出すことはない。パラオは人口が少ないため慢性的に人的資源が足りていない、また、米国政府との契約によりパラオ国籍所持者は米国での居住が容易にできる。給与・待遇比べれば優秀な人材はハワイと米本土に取られる仕組みになっている。だからJICAが供与する備品よりも人的資源の方が大事なのだ。

もしスタッフがまだスキル的にお金の管理がちゃんとできないのであれば、JICAの指導対象としてありえた。ボランティアの派遣やプロジェクトコーディネーターの派遣ですら、ある程度のレベルに達した組織では合わない支援になってきているのだと思う。

この10年でおそらく見違えるほど彼らはできるようになったことが多い。自分たちで資金管理ができるようになってきてるのである。そうなった時にGEFはとても良い資金システムになってくる。

一定予算を与えられ、それに対して使用用途を箇条書きし、資金を割り当て、スケジュールを4年単位で組み、3ヶ月ごとに進捗を管理する。予算通りにするため、期末には帳尻合わせするスキルも必要になる。コーディネーターがやっている仕事を現地人がやるのである。もちろん、GEFもいきなり資金や仕事を渡しているわけではない。財務管理の研修なども行なっている。

昨年7月から、GEF6(地球環境ファシリティ第6次)、パラオの農水環境省が進捗管理する案件でサンゴ礁センターは資金を2期(半年)に渡って受けた。侵略的外来生物の教育素材の制作、小学校での環境教育、水族館内に侵略的外来生物展示エリアの増設を用途にし進行した。

当初なかなか動き方がわからなかった新人スタッフに、プロジェクト費用の管理を行う財務スタッフも扱いに慣れず、突然言い渡される締め切りに、報告書が明日必要だの、使い切ったはずが計算し直したらまだ予算が余ってただの、新人は印刷会社回って回収してきた領収書がどの案件だか紐付けしてないし、というか領収書集めるのは仕事じゃないからな!納品と使用までやって終了やで?! と、もうバタバタのグダグダのぐちゃぐちゃである。マジで最後の1ヶ月は別件も被って勘弁して欲しいって感じだった。

それでもみんなでなんとかやり終えて最後に緊急で帳尻合わせして報告書をうちの財務部のエースがあげた時の表情が、やってよかったと思わせた。進行管理などしたことないスタッフのスキル向上、管理したことないレベルの予算規模をやりきった自信。

もちろん本来の目的としている侵略的外来生物の認知活動の結果はのちに出てくるだろうがこれはまだ先の話。資金の用途は開発協力の現場では皆それなりに意見を持っているし、どれが最適かは結局のところやってみないとわからない。日本人の見立てが正しいこともあるだろうし、もっと良いやり方が現地から出てくることもあるだろう。

だから、どっかの会社に金が回ってキックバックもらってるコンサルがいるとか、入札に裏取引あるとか、コラプションじゃない限り、また、現地の人が必要としてないものでない限り、それなりの意義はあると思う。(とはいえこのコラプション避けるのが実は一番大変なんだけど)

GEFはそれなりにハードルが高く、コラプションは起こりにくいようにできている。また、英語で書類を理解し、進捗とお金を管理して報告としてまとめなければ、最後にお金が降りてこない仕組みになっており、何もしなければ資金は消えていく。(パラオもGEF5は使い切れておらず流れるとかなんとか。)

特に問題なのは政府機関勤務者でコンタクトパーソンになるとメールアドレスをサイトに記載し、本人は何もしないまま放置みたいな状況はGEF以外のファンドでも多々あり、この辺がこれからどう回していくかの課題になりそうである。現場の実際に実行するスタッフが割を食わないようにして欲しいもの。この国でコーディネーター、アドバイザー、プランナーという肩書きをみたらまず働いてない座ってるだけ公務員と疑え、と私はいってる。

最近はこういう、実質的に何もしない仕事みたいなものを批判する人も多く、うちの研究者になった若手スタッフが「私は政治家とかコーディネーターとか、座って指示を出すだけの人より、実質的に何かする人になりたい」といったのは印象的だった。もちろん、両方とも必要な職業ではあるが、現場で何かを実践する人・できる人が今のパラオに少ないというのが問題意識としてあるのは素晴らしいことだと思う。こういったファンドの類は、現場で実際に仕事をする人が動かなければ1ドルもパラオにお金は落ちない。

やってやれないことはない、このGEF案件。実は7次はサンゴ礁センター管理(もう開始している)なので、まだまだ続きます。