通算5年ほど同じ家にホームステイしていて、ホストマムが本気で怒ったのは1度だけあった。

ホストマムが米国にしばらく行っていた間、銀行口座にお金を入れなければならない事案が発生した。パラオの銀行の仕組みは面倒なことになっていて、他行への送金をリモートでするのは難しい。時間がなければもう、現金を下ろして銀行に持って行って入れるしかない。

グランマの口座に入れて欲しいというのである。私は本来家族じゃないし、銀行の窓口ではパーミットを見せたところでただの他人のしかも外国人でしかない。

というわけで、隣のホストアンティたちに託すしかないのである。

で、隣に住むホストアンティとホストカズンに託したらホストマムがブチギレしたのである。なぜなら、このカズンすでにアラサーなのだが、だいぶパラオ人の間で信用のないやつでして、いや、私も知ってたからアンティとグランマのいる前でお金を正確にはアンティに渡して頼んだんだが、カズンに渡したと思われてブチギレされる。

「あなたに頼んだ意味を理解して欲しい。●●(ホストカズンの名前)は信用できないから頼んだのに」というようなメッセが、深夜(米国時間だから)に大量に来ていた・・・初めてこんなに怒られたんですけどw

カズンよ、どんだけ信用ないんだよ

アンティに渡したからってことでだいぶ落ち着いてくれた。いや、いろいろ金抜き取ったりズルしたり嘘ついたりするのは知ってたけど、それも私がパラオ到着当初に比べると本当に落ち着いたもので、ここ2年くらいは別人になったと思ってたんだけどな・・・

結局ホストマムはアイライにいる扱いやすい甥っ子に銀行にお金を入れる作業を依頼。(ホストアンティは車の運転ができないので、銀行窓口に行くのが大変。カズンは運転できるが信用できないという・・・)

ホストカズン以外にもパラオ社会の中で信頼を失っている問題児はいる。

子供の頃からお互いを知っているから、一度信用がなくなると回復は難しいのがこの狭い社会。逆に品行方正な子は多分、人生の最初っから最後まで信用される。信用されるから本人も誇りを持ち悪いことをしなくなる正のループに入っていく。逆にこのホストカズンは負のループから抜け出せない。狭い世間の中で失ってしまった信頼を今更取り戻そうとは思っていないし、信頼されたことで何かをえた成功体験そのものがない。だからすぐにバレる嘘をつく。突然正直になったところでその評価は一生ついて回るから、今更努力しようという気にもならない。

パラワン「パラオ人は問題を話さないことでなかったとにするからね」

まあ、それは日本も同じかな。触れたところで誰も得をしないし、治る見込みは薄い。だから放置し、ただ、重要なことは任せないで距離をとる。狭い人間社会で生きていく知恵というもの。ただ、日本の場合、会社を変えたり住む場所を変えたり、学校を変えたりと、大変ではあるが、できなくもない逃げ方が残されている。パラオの場合、人口2万人程度だと逃げ場がなかなかない。

こういった信用を失った現地人は到着当初の外国人と仲良くなるケースもよくある。今、思い起こせばボツワナもそうだった。アウトサイダーの私たちにとっては到着当初で右も左もわからないときに面倒を見てくれる、良い人に見えることもしばしばある。

なぜ外国人に優しいかというと、それ以外の人間関係がうまく行っていないからである。何も知らない人の方が、彼らも心地よい関係でいられるのである。

だんだん滞在が長くなるにつれ、パラオ人社会で信頼されている人に信頼されないと仕事が成立しなくなるし、問題児にお願いしてもそのほかのパラオ人がついてこない。せいぜいお友達関係くらいがちょうど良い距離感になっていく。

到着当初の孤独な状況においては意外と良い役割をしてくれたりする。アウトサイダーがコミュニティに導入する際に必要な存在なので、アウトサイダーを経験したら、絶対に必要ない存在とは言い切れないのだ。